2021年5月21日金曜日

教会と駅―情報技術が切り拓く日本宣教とキリスト教ジャーナリズムの展望

こんにちは。編集長の井手です。

「人が多く乗り降りしている駅なのに近くに教会がない」そういう駅がどこにあるのかもし分かるなら、教会開拓の候補地を選ぶクリスチャンの役に立つのではないか。この「課題」解決の視点に立ち、創立19周年を記念してクリスチャントゥデイは「教会と駅」というプロジェクトを立ち上げました。この記事ではプロジェクトの意義と開発のきっかけや経緯を紹介したいと思います。

意義-なぜこのようなことをするのか

日本宣教の役に立つ使い勝手の良い安価で便利な道具を提供する。これがこのプロジェクトの第一の意義です。クリスチャンが「教会と駅」をひと目見て「ああこの駅人が多いけど教会ないんだ」と思い、何かを感じてくれること。これに尽きます。「教勢拡張主義」という言葉があるのは十分承知しています。しかし、そのような人にとっても教会がないということは、子ども食堂の担い手、人生が詰んだと感じた人たちの駆け込み寺、災害時の支援物資の配給ハブがないことでもあります。そこに教会を必要としている人が多くいるのかもしれない、のにです。この地図を見て「この町には、わたしの民は大勢いる」(使徒18:10)という聖句を思い起こす人が一人でも起こされれば本望です。

第二の意義として挙げたいのは「キリスト教データジャーナリズム」という新分野の開拓です。データジャーナリズムは報道の仕事にこれまでできなかったような規模、速度、簡易さ、安価さで、情報を集約、分析、表現し、報道対象について新たな知見を得るために、最新の情報技術を応用するジャーナリズムの一分野です。ジャーナリズムと情報技術の重なる領域で、2009年ごろから北米を中心に隆興しました。

日本でも取り組みが行われていますが未だメジャーにはなりきれていません。新聞記者がプログラミングを学んだり、プログラマーが報道を学んだりすること、また両者一つのチームを結成して報道プロジェクトを進めて行くことに、旧来の組織構造や慣習が障壁となっている場合もあるでしょう。

世俗の大手メディアですらそうなのですから、規模の小さい日本のキリスト教ジャーナリズムにおいてはなおさらのことです。実は海外でもキリスト教ジャーナリストがデータジャーナリズムに取り組んでいる事例は探すのが難しいのです。

キリスト教界にも宣教のために情報技術の賜物を持った人がそれを生かそうとする動きはあります。情報技術を金融に応用したフィンテック(FinTech)、教育に応用したエドテック(EdTech)、農業に応用したアグリテック(Agritech)、法務に応用したリーガルテック(LegalTech)など近年様々な分野に情報技術を応用することで革新が起きています。海外のキリスト教界では、フェイステック(FaithTech)などと呼ばれています。聞くドラマ聖書、YouVersionなどのアプリが有名です。日本では「CALM」というクリスチャンITネットワークが「クリスチャン向けコロナ対策サイト」を立ち上げました。

しかし、キリスト教ジャーナリズムの世界が使用する情報技術は紙の新聞の代替物としてのウェブサイト程度で、もちろん相互リンクや検索性、速報性など紙の技術に比べると大きく改善されてはいますが、技術的には2000年代にあったものから変わっていません。この20年で、情報技術は驚くべき進歩を遂げました。クリスチャントゥデイを含め、日本の、いや世界のキリスト教メディアは、2021年現在、利用可能な全ての最新技術を余すところなく使い果たしているとはとても言えません。フェイステックにとって、ジャーナリズムの世界は未踏の地を広く遺したままなのです。

キリスト教+ジャーナリズム=キリスト教ジャーナリズム

ジャーナリズム+情報技術=データジャーナリズム

キリスト教+情報技術=フェイステック

それぞれ2つずつが重なる分野はすでに開拓されているのですが、3つ全部が重なる分野は世界でもまだ未開拓のようです。おそらく能力的には3つとも経験を有する人はいるのでしょうが、やる価値を見いださなかった、きっかけがなかったのかもしれません。

3分野の重なりに位置する「キリスト教データジャーナリズム」

“キリスト教データジャーナリズム”“Christian Data Journalism”という単語の検索結果が示す通りです。しかし、データジャーナリズムのもたらす力は非常に強力です。意思決定を支えるために必要な決定的な事実の裏付けを与える力があります。パナマ文書報道を筆頭にデータジャーナリズムはこれまで何度も世界を揺るがすスクープを出してきました。この力を、剣を鋤に打ち直すように、第一の意義である日本宣教のために打ち直して使う時、神様が栄光を表してくださるのではないでしょうか。

そのような世界の文脈を知れば知るほど、図らずもジャーナリズムの世界と情報技術の世界の両方に足を突っ込んでいたクリスチャンの自分の召命として、この分野を開拓することが感じられたのでした。

「教会と駅」プロジェクトはキリスト教データジャーナリズムの初期事例の一つになるでしょう。利用した技術もそこまで最新ではありません。しかし、はじめの一歩を踏み出すことに価値があると信じるのです。

きっかけ-教会巡りの旅

僕がクリスチャントゥデイの記者をしていたのは大学2年だった2005年からです。2007年に卒業し、アメリカに留学してからも、たまにアメリカのキリスト教界の事情を記事にしては寄稿していました。ただ、情報工学を学んだ修士課程卒業後、大半の時間は、情報技術者の伝道団体・奉仕団体であるG&IT(Gospel & Information Technology)で、献身者として奉仕し、新しい技術を習得しつつキリスト教に関する様々な仕事場でこれを応用するのに費やしてきました。そこで様々な技術に関する経験を授かったことが後で生きてきました。

米国から帰国し、2019年12月にクリスチャントゥデイの編集長になり、まず思ったのが10年以上日本でのキリスト教ジャーナリズムの第一線から離れていたため、自分は日本の教会についてほぼ何も知らないということでした。教会を知らないのにキリスト教の新聞が務まるわけがありません。事情や課題を知らなければ、祈りも愛の実践すらも、相手のニーズに噛み合わないおせっかいになるかもしれません。教会のウェブサイトを読み、ツイッターやFacebookで片っ端から教会をフォローし、教会のYoutubeチャンネルに登録し、日本の全ての人種・国籍・言語の教会、世界のすべての国の日本語・日系人教会について、できるだけ多くの教会をできるだけ深く知る機会を模索しました。

集まり始めたデータ

ある日から、日本のインターネットの地図を検索して表示された教会を見て回るようになりました。Googleストリートビューで建物の外観を見ることもできますし、ウェブサイトにリンクされている教会もあります。自分がすでに見たことのある教会を記録してまだ見たことのない教会を探すようになりました。一つずつ教会を探しては記録する。仕事の合間に47都道府県、1718の市区町村を地図上でまわり、教会を知る。これを繰り返していきました。

大阪湾周辺の教会を記録した様子(2020年1月5日)

教会を探すオンライン日本巡回の旅がいつ始まったかは正確に記録していませんが、一番古い記録は2020年1月5日に大阪湾周辺を回った時でした。同月8日には九州本島、15日には長野、群馬、茨城の一部、28日には青森、秋田と岩手の北部で、ちょうど3000教会を記録しました。2月14日には北海道を周り、6045教会を記録しました。これが1周目でした。

探し漏らした教会があるのは分かっていたので、この後日本を何周もして教会を探し続けました。毎日はできなくとも時間を見つけては回っていました。5月の時点で教派を問わず約9700教会集まりました。まだ抜けている教会がたまに見つかりますがだいたい集めたと思います。(抜けている教会を見つけた方は連絡をくだされば追加いたします。)

そこで気付いたのは、ウェブサイトは持ってないのだけど、地図には教会として登録されている教会があるということでした。Igrejaはポルトガル語で「教会」です。Churchでも교회(韓国語で教会)でもないのです。ቤተክርስቲያንはアムハラ語(エチオピアの公用語)で教会です。インターネットの地図に、ウェブ検索の結果に、そのような表記で在日外国人教会が表記されていたのです。しかも少なくない数で。そのような教会は他の団体や個人が紙で発行したり、オンラインで公開されたりしている教会の住所録にはまったく掲載されていませんでした。

ポルトガル語で教会を意味する"Igreja"で地図を検索した結果

長崎県の五島と鹿児島県の奄美大島には都市に匹敵するほどの密度で教会があり、キリシタンの歴史を感じました。

また、教会以外のカテゴリで登録されている教会もありました。他の人が「教会」や「キリスト教会」という単語で検索した時にちゃんとその教会が検索結果に出てくるように地図の運営元にその都度修正申告をしました。

宣教に生かす方法を考える

そんな折、せっかくこのように教会の一覧が集まったのだから何か有効に活用する方法はないだろうかと、考えていたところ、日本政府の「オープンデータ」についての取り組みを思い出しました。「オープンデータ」とは世界各国の政府が公的情報を紙ではなく、機械判読可能な、つまり情報技術者がプログラミングの入力データとして容易に読み込ませることのできる電子的形式で情報公開をして、民間の企業や非営利団体、個人の研究者などの価値創造に寄与することを目的とした運動です。日本でも国や地方公共団体が取り組んでいることを思い出しました。

日本全国を網羅する教会のデータがあるなら、日本全国を網羅する他の種類・業界のデータと組み合わせて何かの役に立つような道具を作ることはできないだろうか。土地ごとの人口データは誰でも思いつくでしょうし、宣教に大きな変革をもたらすほどの相乗効果が得られるとは思えませんでした。そこで、ふとひらめいたのが日本全国の駅の乗降者数でした。昔なにかのウェブサイトで日本の駅の乗降者数のランキングを見た覚えがあったからです。検索すると国土交通省が出していました。「教会と駅」のアイディアが固まり始めた瞬間でした。

データをどう理解するか

その頃はまだ、教会の位置情報と駅の位置情報と乗降者数をどうにかつなぎ合わせて加工して意味のある何かを得たいという漠然とした考えしかありませんでした。無料でインターネット公開されているデータジャーナリズムの教科書、データジャーナリズムハンドブックには、データの取得理解提供に関してそれぞれ集中的に取り上げた章があります。取得はできたので次は理解することが必要でした。

入門書として世界的に有名なデータ・ジャーナリズム・ハンドブックの日本語版

パナマ文書の膨大なデータを理解するのに役立った技術が思い出されました。「グラフデータベース」と呼ばれる技術です。数学に頂点と枝の集合で構成される「グラフ」を扱った、グラフ理論と呼ばれる分野があり「巡回セールスマン問題」などで知られていますが、それを計算機科学に応用したデータベースです。異なった種類のデータ同士の複雑な「繋がり」についての情報を処理する道具で、「教会と駅」の分析にはうってつけだと思いました。

これとは別に、行と列が基本のエクセルのような表計算のようにデータを格納し、表と表を関連付けることで情報を処理するデータベースがあります。「関係データベース」と呼ばれます。これはデータの保存、加工、表示をするソフトウェアでは非常に多く使われているもので、僕も使い慣れていますが、この課題を解決するためには「グラフデータベース」がより効果的な技術であると判断しました。

それまでの仕事でグラフデータベースを使ったことはあるものの、使いやすくするソフトウェアを介して関係データベースと同じように使っていたにすぎず、グラフデータベースでしか解決できない課題に遭遇したことはなく、本格的に学んだことはありませんでした。僕は新しい技術が出てきたらすぐ飛びつくタイプのソフトウェアエンジニアではありません。遠巻きにしてしばらく静観し、人気が出てきてからようやく試してみるのでよく流行に遅れます。グラフデータベースもそうでした。ただ、パナマ文書での大活躍もあり、その有用性と実績はすでに把握していたので、学ぶと腹に決めてからはコンピューター言語の一種である「問い合わせ言語」のグラフデータベース用の文法書を印刷し、朝と夜読みながら重要な構文を理解し、暗記し、テスト用のデータベースを構築し「問い合わせ言語」によってデータベースへのデータの入力、分析、分析結果の出力の方法を練習しつつ失敗しつつ学びました。

一つの教会から2km以内の駅を全て表示させる問い合わせ例

国土交通省から取得した駅は10433箇所、自分で集めた教会は9474箇所、教会と駅の組み合わせは9884万2242、約1億通りになります。これは数としては多いのですが大半は、北海道の教会と沖縄の駅の組み合わせのように、あまり意味のない組み合わせです。この中に埋まっている意味のあるデータを抽出するのが技術者の仕事です。

今回のプロジェクトではそれぞれの組み合わせから教会と駅の緯度と経度から距離を求め、5kmより短い組み合わせ24万1642通りを絞り込みデータベースに残す方法を取りました。緯度と経度から2地点間の距離を約1億回計算し、5km以下のものを抽出しました。

そのために必要なのがコンピューターに仕事を頼むための言葉、プログラミング言語です。これは人間とコンピューターが共通して理解できるように設計された人工的な言語です。

地球は丸いので距離の計算には地球の半径や逆三角関数などを使わなければなりません。コンピューターを使わないでこのような複雑な数式を1億回も計算するのは関数電卓では非現実的な時間がかかるでしょう。おそらくエクセルでもできるでしょうが、僕は自分の使い慣れたプログラミング言語を使いました。

緯度と経度を用いて2地点間の距離を求めるようコンピューターに依頼する文章

「2地点間の距離を求めてほしい」とコンピューターに伝える言葉は15行で記述できます。「データベースからデータを出して、1億回計算して、5km以下の距離関係に絞ってものだけを保存してほしい」と記述する文は94行で書くことができました。もちろん何度も思うような結果が出ず、失敗しながら何度も仕事を頼む文章を編集した結果できあがったものです。

コンピューターに計算を頼むと1億回の計算を2分で終わらせました。計算に使ったのは量販店で売っているようなごく普通のパソコンです。私たちが普段メールを読み書きしたり、ウェブサイトや動画を見たりしているコンピューターは、普段その潜在能力の1%も使っていないのかもしれませんが、鞘から抜けばこれほど強大な力を発揮する鋭い剣のようなものです。キリスト教ジャーナリズムのためにこの剣を打ち直し、鋤として利用できたことに感謝した瞬間でした。

98842242通りの組み合わせから241642通りの教会と駅を121秒で探し出したときの画面

データをどう提供するか

次はデータの提供です。データジャーナリズムではどんなに複雑なデータでも情報技術を応用して加工し、誰でも一発で分かるように表現することが求められます。表現する技術です。可視化、ビジュアライゼーションとも呼ばれます。技術を使うのですから難しいことを簡単にしてくれる道具・ソフトウェアを探しました。「教会と駅」は位置情報を扱うのですから、表示する場所は地図が最もふさわしいはずです。しかし、地図上のデータ表示技術といっても千差万別です。使いやすいが機能に劣るもの、機能は非常に豊富であるが使いにくいもの。それぞれの課題に応じて最適なものを数百、数千の道具の中から探していく必要がありました。情報技術の道具は1種類の課題をとっても何百種類の解決方法がすでに開発されているのです。技術者の仕事の一つはどの解決方法が最適かを判断することにあります。

2次元の地図に投影するか、3次元の地図に投影するかでまず迷いました。2次元にすると道具は単純なのですが、表現方法が陳腐になります。3次元にすると表現は多彩なのですが、道具の使い方が難しい。3次元でできるだけ簡単なものを探していたところ、Google社が2011年に公表した地球儀上の人口グラフが思い出されました。ちょうど3次元でウェブサイトでの掲載にも適した技術でした。これをどうにかして簡単に使い回せないか調べてみましたが頓挫しました。

Google社が公開した地球儀に投影された人口の棒グラフ

必要な道具を与えてくださいと神様に祈り求めつつ探しました。次に見つけたのがMapbox社の提供する技術を応用して作成された3次元人口密度グラフ地図でした。この技術は応用性に優れ、利用方法も簡易で、表現できる幅も多彩であったため、この技術を採用することに決め、Mapbox社の技術文書を学び、加工済みのデータを表現するプログラムを開発しました。

「教会と駅」はインターネット上で動作する地図アプリケーションですので、操作しやすく作る必要があります。何も説明書を読まなくても直感的に操作ができるよう工業デザインや人間工学的側面、つまり機能性を追求した先に現れる美しさを目指して開発しました。どこまでできたかは利用者である皆さんに判断を任せます。改善の提案があればどしどしご連絡ください。(技術者の方々へ:GithubでのIssueやPull Requestも歓迎します)

謝辞

世界宣教、特にその中でも日本の宣教の進展に強い関心と動機を持つようになったのは、これまで自分が教会や学校や本を通して出会ってきた先輩の宣教者、宣教学者らの背中を見て感化されてきたからです。未伝達民族の統計を応用した宣教学の創始者ラルフ・D・ウィンター博士、そのウィンター博士から指導を受けキリスト教宣教のための総合大学であるオリベット・大学を創立した張在亨牧師、オリベット大学の修士課程で師事した宣教学者のウィリアム・ワグナー教授、母教会である東京ソフィア教会を開拓した宣教師の方々、1888年にたった一人でイギリスから日本に伝道しに来たハーバード・ブランド氏、ブランド氏の群れから日本人最初の海外伝道者であるキリスト同信会の乗松雅休氏、同じく後戦後最初の海外伝道者となった小山晃佑氏、同じく戦後直後に日本宣教を志して来日し僕が受洗することとなる東京バプテスト教会を開拓したダブ・ジャクソン宣教師。様々な信仰の先人、宣教者の先人の労苦と愛の実りを神様によって授かったゆえに「教会と駅」は日の目を見るようになりました。

最後に、このプロジェクトは2020年4月10日に昇天された国際基督教大学のクリスチャン計算機科学者、故ルカーシュ・ピフル教授なしには生まれなかったことを述べさせてください。ピフル先生はチェコで生まれ若くして2つの博士号を取り、日本に渡り会津大学で講師を務めたあと国際基督教大学に赴任されました。その研究領域は単に計算機科学の範囲を超え、これを経済学や物理学に応用して新たな課題解決に当たる学際性の高い研究者でした。

僕の証しに一部書きましたが、物理学専攻だった大学1年の終わりにクリスチャンになり、宣教に役立つ学問を学びたいと願って計算機科学に専攻を変えました。国際基督教大学にはアドバイザー制度というものがあり、学生一人に一人の教授がついてメンタリングします。助教として赴任された直後、2年から僕のアドバイザーになったピフル先生は1年遅れのハンディを負った僕を卒業まで根気強く指導し、プログラミングとソフトウェアエンジニアリングのいろはを叩き込んでくださいました。

故ルカーシュ・ピフル教授の指導の下執筆した論文に掲載された3次元グラフ

国際基督教大学に提出した学士論文は「多次元データベースのオンライン3D表示技術とその応用」でした。論文執筆を遅くまで指導してくださったのはピフル先生でした。このプロジェクトにおいて構築した、教会と駅の緯度経度と互いの距離、駅の乗降者数を扱うデータベースはまさに多次元データベースであり、このデータから有用な情報を抽出し、複雑なデータを直感的に理解するためには、オンラインでの3D表示技術を応用する必要があります。拙い論文で訴えた論理と理想が、時を経てこのプロジェクトとして形をもって実現することになりました。

問題児の僕を、愛を持って励まし、共に喜び、共に悲しんでくださったピフル先生はクリスチャンになったばかりの僕にとって、単なるアドバイザー(指導教授)以上の、良き信仰生活の模範でした。チェコの共産主義政権の迫害の下で逆境を耐え忍び、なお神に信頼するキリスト者の信仰をピフル先生に教わらなければ、僕はここまでこられずに何回も頓挫していたでしょう。

卒業後も何度か学校の敷地内にあるピフル先生の職員住宅に遊びに行っては近況を分かち合っていました。最後にお会いできたのはアメリカから一時帰国した2019年1月9日でした。数年ぶりに国際基督教大学の水曜の大学礼拝に参加し、礼拝後にピフル先生と立ち話をしました。その時も宣教のために用いようとして調べている最新の技術について話題を交わし、久しぶりに会えたことを互いに喜んだのでした。

亡くなったと聞いたときはとてもショックでもっと何か目に見える成長の証しを見せる機会があったら良かったのにと後悔したものです。

4月10日に国際基督教大学教会でピフル先生の昇天1周年記念礼拝があり、参加して来ました。国際基督教大学の関係者の方々が、先生が生きておられた時のお話を懐かしく証しするのを聞くことができ、そのような素晴らしい先生に育ててくださった恩義に改めて感謝しました。

ピフル先生、天国から見ていてくださっているでしょうか。あなたの弟子がここにおります。学際研究に励んだ先生を模範に、僕は今、計算機科学、宣教学、ジャーナリズム学の3つの分野が交差する学際分野で仕事していますよ。先生に教えられた技術と、蒔いてくださったキリスト教信仰は僕の中で不可分に結びつき、芽生え成長し、一つのプロジェクトとしてやっと結実しました。先生に是非見せたかったのですが、また今回も「課題」を提出するのが遅れてしまいましたね。僕がそっちに行ったらぜひ採点をお願いします。